新建築 2020年7月号発売となりました !

都市とテクノロジー 第4回:300.000Km/s ---まちづくりにおけるビジュアライゼーションの可能性

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

第1回にも登場したバルセロナを拠点に活動する300.000Km/sは建築をバックグラウンドに持つMar SantamariaとPablo Martinezによって結成された。彼らが異色なのは、建築家でありながらも、ビックデータを用いて都市分析やその可視化に特化している点である。

たとえばBIG TIME BCNでは、建造物保護への市民意識を高めるためインタラクティブな地図が作成された。ひとつひとつの建物をクリックすると、建てられた年代など詳細情報が表示され、それがバルセロナ市全域をカバーしている。まちの一区画など、部分的なものに留まっていないところがポイントだ。

同様の試みはこれまでにも存在したが、彼らは非専門職の市民をターゲットに、歴史的建造物への意識と知識を高めることに焦点を絞っている。そして建造物保護という政策決定への参加を促しているところが、これまでの試みとは決定的に違う。データの可視化を市民との重要なコミュニケーション・ツールと位置づけているのだ。

また、バルセロナ市歴史博物館(MUHBA)と協働したThe Historic Charter of Barcelona(CHB)では、バルセロナ市の発展の様子を26枚の地図とともに時間軸上に可視化し、インタラクティブなウェブツールとして公開している。1次資料のテキストや紙ベースで出版された地図などをもとに、歴史家が都市発展の成り立ちを再検証し、その結果を300.000Km/sが視覚化するという協働がもたらした産物だ。地図の作成から公開まで、すべてフリーのオンラインツールが用いられたことも特出されてよいだろう。これらの地図はすべてウェブ上で公開され、市民が自分のパソコンを通して直接資料に書き込みをしたり、それをほかの人と共有したりと教育ツールとしても役立てられている。

オープンデータと可視化ツール、そして圧倒的なビジュアライゼーションの技術を巧みに用いて活躍する彼らの姿は、我々にとっての新しい建築家像、ひいては従来とは違った方向での建築家としての職能の可能性を感じさせてくれる。

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。