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都市とテクノロジー 最終回:都市の科学と技術 ---Urban Sciencesの可能性

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

1859年、人間についての科学的探求の扉を開けた1冊の書籍が発表された。チャールズ・ダーウィンの『種の起源』である。われわれの世界を彩る多種多様な生物は神が創造したという当時の宗教観が支配的だったなか、ダーウィンはすべての生物は共通の祖先から長い時間をかけて徐々に変化してきたと主張し、大論争を巻き起こした。

同年、バルセロナにて“もう一つの科学”が産声を上げようとしていた。土木技師イルデフォンソ・セルダ(Ildefonso Cerdá)による都市の科学だ。「バルセロナ都市拡張計画」(1859)の実践と共に理論面を構築してきたセルダは、1850〜60年代に発表した一連の著作*を通して新たな科学の創出を目指し、自身がつくり出した「ウルバニサシオン(都市化)」という単語についてこう書いている。

「ウルバニサシオンという単語はいかなる辞書にもないが、当てはめるべきよい単語が見当たらないような新たな考えを表現するために、われわれはそれを使う必要がある」**

セルダはこの造語と共に、都市のデータを自ら集め、それらを科学的に分析し、その結果を用いて都市を構築していく手法を編み出し、『都市化の一般理論』(1867)としてまとめた。

近代の都市計画の概念や単語の起源には諸説ある。19世紀後半〜20世紀前半にかけて都市計画、アーバニズム、タウン・プランニングなどさまざまな概念や用語が同時多発的に勃興した。各国を見渡してみると、産業革命発祥の国であるイギリスでは世界初の公衆衛生法が生まれ建築規制や開発規制が始まり、それが後に「タウン・プランニング」という都市計画法(1909年)に行き着く。ドイツでは、ラインハルト・バウマイスター(Reinhard Baumeister)が公的介入に基づく都市拡張の考え方をいち早く示し(1876年)、フランスでは「ユルバニスム(Urbanisme)」という語がフランス人によって生み出されたとされた。こうして近代都市計画は、社会技術として展開されていった。

だが、こうは考えられないだろうか。フランスで「ユルバニスム」が生み出された約50年も前に、近代都市計画の種はセルダによって、都市の科学として撒かれていた。しかし、19世紀後半〜20世紀前半にかけて近代国家のインフラを整備していくなかで、サイエンスの部分がそぎ落とされ、技術の部分だけがフォーカスされていった。この見方は、フランスワーズ・ショエ(Françoise Choay)が描いた「ユルバニスム」***、つまり近代化を目指して都市をつくっていく技術へと昇華していく過程とも符合する。

都市計画から科学の側面が忘れられたのは、近代都市計画の父となるはずだったセルダが、ヨーロッパの辺境に生まれたがゆえに歴史から忘却されていたこと、同じく都市の科学を唱えながらもスコットランドという辺境に生まれたパトリック・ゲデス(Patrick Geddes)が最近になって再発見されたこととも軌を一にしている。

セルダが都市の科学を提唱してから今年で約150年が経った。現在のわれわれはさまざまなセンサーに囲まれ、多様なデータが日々増殖し、それらをリアルタイムに解析できるコンピュータも手に入れている。統計の知識も揃ってきた。コードによって都市に関する大規模データとシミュレーションも可能になった。

近代都市計画の黎明期にごっちゃになってしまった都市における科学と技術を、もう一度整理する時が来たのではないか。本来は別々であるはずの科学と技術が一緒くたになっているこの状況を、もう一度根底から見直すべき時なのではないだろうか。本連載で紹介してきた手法や分析のフレームワークは、その際の手掛かりになるものであり、それらを束ねる概念こそ「Urban Sciences」という考え方だ。本連載を通してそのダイナミズムを少しでも感じてもらえたら、筆者としてはこの上ない喜びである。

本連載はひとこと連載として始まった。都市とテクノロジーに関するテーマを一つずつ、1回400字程度ということでまとめた。最後の方は熱が入り、400字を大幅に越してしまった回も何回か見受けられるが、それもウェブ連載のいいところだ。また、誌面では伝えられない「ウェブ連載だからこそ」の試みというのも実験的に行った。それがYoutubeなど動画を混ぜ合わせた連載であり、筆者のホームページに補助ページをつくりそこへのリンクを貼ることによって更なる説明を加えるという形式もとってみた。どちらも試験的に運用してみたものなので、それが使い易かったかどうかは読者の判断を待ちたいと思う。

最後に。科学というのは知的な遊びでワクワクする冒険だ。本連載を通して、ひとりでも多くの建築家・プランナーのかたがたに科学を好きになってもらえたらこれほど嬉しいことはない。また、みんなで一緒にまちのサイエンスを探していけたら、きっとまちはもっと住みやすく、そしてもっと楽しいものになると思う。

その仕事を、筆者の残りの半生を掛けた仕事にしていきたいと思っている。

関連情報:

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セルダは1855年に『バルセロナ拡張地区の基本構想に関する報告書』、1859年に『バルセロナの改善と拡張に適用された都市建設理論』、1861年に『都市の道路ネットワーク理論』、1867年に『都市化の一般理論』、1868年に『1856年のバルセロナの労働者階級に関する統計書』を著している。

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阿部大輔(2010)イルデフォンソ・セルダの著書「都市計画の一般理論」に至る計画概念についての試論、日本都市計画学会、都市計画論文集 No.45-3, P.215から引用

***
フランスワーズ・ショエ(彦坂裕訳)『近代都市―19世紀のプランニング―』(井上書院、1983)

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。