a+u 2020年10月号発売となりました !

都市とテクノロジー 第13回:AIを用いた緑視率のマッピング手法の開発

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

「緑被率調査」という言葉を聞いたことがあるだろうか?都市のどこにどれだけの樹木が分布しているかを航空写真からコンピュータ解析する調査のことで、都市計画の分野では何十年も前から伝統的に行われている。しかし、何千メートルも上空から撮影した写真を用いたこの手法では、われわれがまちを歩いている時に認知する樹木の感じかたと異なるという問題点があった。

そこで、ある特定の地点から目に入る範囲に、緑がどれくらいの割合で分布しているかを調べる「緑視率(Green View Index)」という調査が出てきた。目線の高さで撮ったデジタル画像を使用して、写真の中にどれくらいの割合で緑が分布しているのかを調べる。

しかし、そのようなヒューマン・パワーに頼った手法では、都市の一部を調べるのならまだしも、都市全体を隈なく調査することはできない。その限界を越えるためにわれわれが提案したのが、街路レベルにおける緑の分布を機械の目でミクロに判別し、マクロ(都市全体)にマッピングできる手法の開発だった。

まず、街路レベルから見た風景のビッグデータをGoogle Street Viewから収集する。各ポイントから取得された画像データのうち、樹木の情報だけを機械の目によって抜き出す。簡単にいうと、写真に写り込んだ樹木とそれ以外の要素を自動判別するモデルを構築した。そうすることによって、歩行者目線から見た緑の認知に近しいマッピングが可能になる。

このプロジェクトでは同時に、ある地域でランダムに地点を選んだ時、そこから見える緑の量を「標準化緑視率(Standardized Green View Index)」として指標化した。従来から用いられている緑視率は、特定地点から見える緑の量を定量化しただけなので、サンプルによるバイアスなどが考慮されず不完全なものにとどまっていた。都市形態の特徴である街路ネットワークやその偏りなどが、まったく反映されていないという問題点も指摘されていた。それをサンプル地点の密度を考慮することで克服したのが、標準化緑視率の考え方だ。

さらに、緑被率と緑視率の関係性にも踏み込んだ。衛星画像を解析して緑被率を計算し、それを緑視率と比較してみると、Google Street Viewがカバーできていない森林公園などでは緑被率が、まちの中心部など街路樹が多いエリアでは緑視率が高いことが分かってきた。さらにそこから標準化緑視率を都市の指標として計算してみると、以前から使用されていた緑視率よりも、現状をより精密に抽出できることも確認した。

今回のコロナ禍が残した教訓の一つは、都市内における緑地の重要性だろう。緑地は人びとの心を癒し、地球温暖化にも貢献するが、「緑があれば豊か」といった短絡的なものではなく、「どのような質の緑がどこに分布すると、居住地の環境や生活の質の改善に繋がるか」にまで目を向ける必要がある。しかし、われわれはそのような緑地や街路樹が都市全体でどのように分布しているのか、それすら把握できていない。また、緑の質の違いについて特定の街区など都市の一部で把握できていたとしても、異なる都市間で比較することなどは難しかった。データの取得やその解析など、統一されたフレームワークが存在しなかったからだ。

今回開発した「標準化緑視率」は、それらの限界を乗り越える技術である。その技術を介して収集されたビッグデータを定量分析することによって、大陸間における都市同士の科学的な比較も可能になる。

科学とは、われわれの世界を構成している、その裏にある法則やパターンを発見する方法論のことだ。そのためには、正確に現象を測る物差しと、測定されたデータ、そして分析手法の公開を通した再現性が重要になる。だからこそデータや分析コードをシェアすることが意味をもつのだ。また、都市緑地の研究は「自分たちで調べたら終わり」ではなく、ほかの人が後から解析できるような仕組み(データシェア)が求められる。そうすることで、みんなで都市を良くしていくことが可能となる。つまり、これは「都市のサイエンス」を可能にするツールなのだ。

都市の緑のビッグデータと定量化は、今後のわれわれのライフスタイルに都市全体として対応するための、不可欠のインフラになり得ると考えている。

関連情報:

Kumakoshi, Y., Chan, S. Y., Koizumi, H., Li, X., & Yoshimura, Y. (2020). Standardized Green View Index and Quantification of Different Metrics of Urban Green Vegetation. arXiv preprint arXiv:2008.00229.

吉村有司,「まちづくりにおけるAIの可能性、建築家にとって科学とは何か?」,『建築雑誌』,vol.132 No.1704, p.36-37, 2017

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。