新建築 2020年12月号発売となりました !

都市とテクノロジー 第1回:建築・都市計画・まちづくりにとって科学とはなにか

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

情報ネットワークとその周辺技術の発展は、我々の都市とそのつくり方、デザインの方法を根底から変え始めている。新しい技術に裏打ちされた機器の登場により、我々の諸活動に関する詳細なデータが大規模に収集可能になり、これまでは捉えることの出来なかった法則やパターンが発見され始めている。期せずして起こってしまった今回のコロナ禍では、連日のメディア報道を見るにつけビックデータ分析のパワーと、その視覚化に目がとまった読者も多かったのではないか。特にデータのビジュアライゼーションは、正しく用いれば非専門職の人々との重要なコミュニケーションツールになり得る可能性を秘めている。

このような、サイエンスに裏打ちされた発見やツールは、社会技術として発展してきた建築や都市計画、まちづくりにどのような影響を与えるのだろうか、もしくは与えないのであろうか。

2016年にIAAC(Institute for Advanced Architecture of Catalonia)で行われた300.000km/s(バルセロナを拠点に活動するMar SantamariaとPablo Martinezによる建築家ユニット)によるプレゼンテーション

筆者が長年過ごしたバルセロナでは自治体だけではなく、建築事務所などによるビックデータ活用が盛んだ。2019年のスペイン都市計画賞(スペイン建築家協会が授与する、その年の最も優れた都市計画に与えられる賞)は、300.000km/sが提案した「バルセロナの歴史的中心地区の土地利用計画」に与えられた。都市に関わるビックデータをAIや機械学習などによって分析し、そこから出てきたパターンを用いた計画立案手法が高く評価されたかたちだ。

特筆すべきは、スペイン建築家協会のような伝統ある機関が、近年勃興してきたAIやビックデータを用いた提案に対して賞を与えたという事実である。また、同作品は欧州委員会が主催する「S+T+ARTS」も受賞している。審査員の評価コメントには、「ビックテックが先導するトップダウンに基づくスマートシティへのアプローチとは違う、市民ファーストを基軸としたアプローチを示した点」とある。奇しくもこの原稿を書いている現在、Googleの親会社であるAlphabet傘下のSidewalk Labsがカナダのトロントで進めていたスマートシティのプロジェクトから撤退するというニュースが飛び込んできた。我々の社会は市民を巻き込んだボトムアップ型の「もう1つのスマートシティ」を求めているのかもしれない。

本連載では、近年勃興してきたUrban Sciencesというレンズを通してその可能性を探っていく。

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。