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都市とテクノロジー 第8回:Yahoo! JAPANの検索キーワードを用いたまちづくりの可能性

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

第8回から、東京大学の筆者のグループが実際に携わっている研究プロジェクトを通した「データを用いたまちづくり」の可能性を探っていきたい。

まちについて住人はどんなことを思い、感じているのだろうか?この命題は、建築家や都市のプランナーが最も知りたいことの一つである。だからこそ、アンケートやインタビュー、観察などを通して「まちの本当の姿」を浮かび上がらせようとしてきた。

しかし、その試みはある種の限界を露呈していた。サンプル数の問題だ。詳細なインタビューでは、被験者の属性や思考がつまびらかになるかもしれないが、そのインタビューが詳細に及ぶほど被験者への負担が増大し、結果サンプル数が限られてしまうというトレード・オフに直面することになる。たとえばケヴィン・リンチ(Kevin Lynch)の『都市のイメージ』(岩波書店、1968年、翻訳:丹下健三、富田玲子)は今でも読み継がれる古典的名著だが、そのサンプル数が意外に少ないことを認識している読者はいったいどれほどいるだろうか?

筆者のグループはこの問題に、Yahoo!JAPANとのデータ・ソリューション事業の共同研究を通して、検索キーワードを活用することによって答えようとしている。「DS.INSIGHT」は、Yahoo!JAPANが保有する検索と位置情報のビッグデータを分析できるデスク・リサーチ・ツールだ。

「DS.INSIGHT」サービス紹介動画

このリサーチ・ツールの特徴は、ある地名を入れた時にどんなキーワードがペアとして最もよく検索されているかという問題に集約される。たとえば「渋谷」というキーワードを入力したとする。人によってはその次に「レストラン」と入れるかもしれないし、「エンターテイメント」と入れるかもしれない。そのような検索キーワードのビッグデータを年齢や性別といった属性別に分析することにより、渋谷にたいする人びとの興味や関心といった内面の分析が可能になる。まったく同じ手法を用いて、地区再開発に関する人びとの意見を求めることも可能だ。これらの分析は集計されたかたちででてくるので、個人を特定できるような情報は一切含まれていない。データを用いたまちづくりを進めていく上で重要な側面だ。

思えばこれまで、都市計画やまちづくりにおいて、そのプロジェクトの評価が行われたことはほとんどなかったのではないだろうか?再開発をする前段階で住民へのヒヤリングなどは精力的に行われる一方で、一旦、開発が一段落したらそれで満足されてしまうプロジェクトが多い。しかし、本当に大切なのは開発後である。そこで暮らす住人が再開発にたいして本当はどう思っているのかを把握し、その教訓を次に活かすことこそ、真にスマートな都市開発だといえよう。

Yahoo! JAPANとの検索キーワードを用いた指標づくりは、これまでのアンケート調査にもとづく少数サンプルではなく、携帯電話トラッキングのような被験者の内面を知り得ない大規模データでもない、「人びとの思考や興味関心をともなうビッグデータ」という第3の道を指し示している。

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。