a+u 2020年10月号発売となりました !

海外の建築教育 第9回:行雲流水 @イギリス(1/4)

Hyper与太話

堀田憲祐/ぽ

神学校オックスブリッジに比して、神がいないと言われる「Gower Street(ガウワーストリート):Hidden Londonより転載

このエッセイは、筆者がイギリスへ遊学するまでの経緯の与太話、AAスクールUCLバートレット校などの研究機関のカリキュラム、そこで学んだいろいろの哲学を4回に分けて綴る。1回目は与太話である。

渡英の実際の理由は成り行き、強いていうなら伊丹十三的退屈であったといったら気障すぎるか。もっともらしい理由を後からつけ足すなら、AA Publicationsから刊行された『Morpho-Ecologies』*という出版物との出合いである。当時を振り返ると、先人の哲学をもとに、研ぎに研いだ自身のアジェンダがボンヤリ見えたと思ったら、世間と応答不能になっていた。その道で賢者と呼ばれる人に掛け合ってみたが、手応えがなく、なにか見当違いの袋小路に入ったのかと心配していた。そんななか、前述の本の、サイバネティクスを端緒とした生物学的・社会学的アプローチ、その今日的なコンピュテーションによる実装と観察をもとにした「アーキテクチャーはもはや建築物の意味ではない」という思想に興味をかきたてられた。

そして、イギリスの建築事務所のワークショップなどに参加したり、ウロウロするうちに遊学することになった。たとえばクルマならドイツ車とフランス車には歴然とした哲学の違いがあることが素人にもわかる。欧州はプロダクトやデザインなどで継続的に良質でかつユニークなのものが上がってくるので、なぜなのかといつも興味をひかれている。

ロンドンの風景:「London 4K UHD |Explore the City of London: Architecture, Culture, Museum…both Walk & Aerial Tours」Go Places Proより転載

いざイギリス、ロンドンに住んでみると、食事が、まちが、空気が、というリアル与太話もあるが、そんなことよりも精神的に自由であることを特筆したい。はじめは言葉がわからないので、理解し合えないと思っていたが、やや言葉がわかってきても、それほど理解し合うことを目指していないように感じた。ハイコンテクストであり、当たり前を他人に求めないことが、これほどにも清々しいことか。また、このことを通じて母国をいくらか相対化できたように思う。

そんなこんなで2~3年生活し、言語が読めるようになると文化的世界が1.85倍くらい広がった気がした。英語圏はイギリス連邦へと広がっており、加えて欧州・中東・南アメリカ・アジアの一部の人びとと、なんとか意思疎通は可能である。ある資料によると英語使用者が現在15億人とあるので、実際は15倍か。しかし、それぞれの文化(建築も含めて)の地平線が、それぞれに広がっている。たとえば、イギリスの大学図書館や国立図書館では何時間も探しまわったアフリカの民族系資料が、パリへ行くと出るわ出るわ(嬉しくて日本の恩師に郵送してしまった)。フランスの文化人類学が強いのか、組織があったのか、レヴィ=ストロースが偉大すぎたのか、とにかく、国によって学問体系も重量のかけ方も違う。

AAのアカデミックライフ(7年前とあるので知っている顔も見られる):AA School of Architectureより転載

よし、建築業界の話をしよう。おそらく飛行機の利便性の関係で、欧州の建築家がその出身に関係なくロンドン近郊にオフィスを設けている。有名なオフィス、たとえばArupZHAFoster+PartnersFOARSHPKPFBuro HappoldHeatherwickなどが物理的に近くにあり、結果、よく交流する。加えてオフィスの規模に関係なく、R&Dに時間と予算を割き若く話が通じる実務家連中とワークショップを乱発する。この短期の教育プログラムのお陰で蘊蓄家ではなく実装できる人になれる。これを国内外問わず何回もやるので、結果としてそれが呼び水になって渡英する外国人が多い。私も後にワークショップの講師として、さまざまな国に行き、状況を見て、学んだ。しかも、その曇りなき眼を数年後にロンドンで見かけることも多く、あれ…どこかで会った…ああ君の名は…(でもギリシア語で読めない)、といったことが頻発した。

以上をまとめるなら、異文化を許容するロンドン…競争は激しくも心は自由、文化的な成熟、保守的な分パンクな揺り戻しもあり、総体としてはある意味健全か。

*『Morpho-ecologies』: Towards Heterogeneous Space in Architectural Design』Michael Hensel, Achim Menges, Architectural Association, 2006

サムネイル:Gower Street, Camden:Hidden Londonより転載

堀田憲祐/コンピュテーショナル・アーキテクト
日本生まれ、京都大学、東京大学、ロンドン大学、AAスクール修了、博士。日本においては日建設計・三菱地所設計などのプラクティスでコンピューテション業務を、2016年にコンピュテーショナルデザイン会社ぽを起業。また、アカデミアでは大学や研究所などでリサーチ活動も並行している。好きな食べ物はズワイガニ。
筆者ウェブサイト:http://p-o.co.jp