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海外の建築教育 第8回:次の留学生へのバトン

杉田 宗/広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授

ペンシルバニア大学への入学と同時に、アルゴリズミック・デザインにどっぷりと浸かった私であったが、もっとも濃い時間はセシル・バルモンド(Cecil Balmond)のスタジオを取った3年目である。当時ペンシルバニア大学では、建築学と生物学を横断するアルゴリズミック・デザイン研究の基盤となる「非線形システム機構(NLSO)」が立ち上げられ、教育と研究がパラレルに進められていた。ローランド・スヌーク(Roland Snook)やジェニー・サビン(Jenny Sabin)といった若手建築家の指導のもと、学生たちはRhinocriptやProcessingといったスクリプト言語を学び、コーディングを通して自己生成的に建築をつくっていくメソドロジーについて研究していた。

セシルとローランドのスタジオではエージェント・ベース・モデルを用いた設計手法により、離散的なプロセスで建築が生成される研究を進めた。最終学年のスタジオでは1週間程のスタジオ・トリップもある。セシルのスタジオでは、まずロンドンのArupでアドバンス・ジオメトリー・ユニット(AGU)のメンバーによる指導を受け、研究プロジェクトをプレゼンテーションをする機会を得た後、バルセロナのInstitute for Advanced Architecture of Catalonia (IAAC)を訪れ、現地の学生との合同講評会を行った。今思い返しても、こういったキャンパスを飛び出した活動も非常にダイナミックだった。

 2種類のエージェントシステムが敷地の情報も考慮しながら組織を生成する様子。

エージェント・ベース・モデルを設計に用いるというチャレンジングなテーマに取り組んでいたが、スタジオ・トリップで訪れたバルセロナで不思議な感覚を覚えた瞬間があった。それはガウディによるグエル公園を訪れた時である。公園を支える柱が並ぶ低層部分は、ゴツゴツした石が「集まってきて」有機的な形をつくっているような独特な力を感じた。日本の石垣などにも通じる不思議な感覚であるが、これはガウディや当時の職人の高い技術によって初めて実現されている建築である。エージェント・ベース・モデルを使って作ることは、こういった生き生きとした建築をコンピュテーションの力を借りて実現できることではないかなと考えた。このようにセシルのスタジオを通して考えたことは、大学院を修了した直後に応募したパビリオンの国際コンペでプロトタイプとして実現している。

 限られた時間での製作に対応するためにシンプルな組み合わせの積み重ねて複雑な形状を作るシステムを考えた。

大学院入学とともにアルゴリズミック・デザインに出会い、それまでのコンピューターの使い方が大きく変化したが、大学院を終える頃には、そういった技術をデザインを実現させるための生産や施工に繋げていく可能性に興味が広がっていった。これは現在の研究のテーマであるデジタル・ファブリケーションや、ロボットを使ったデジタル・メンテナンスのベースになっていると言える。

  建設可能な組み合わせに変換するためのスクリプト。デザインのために使っていたコーディングが、デザインを実現させるためのコーディングにシフトした。

 パビリオンの竣工写真。

以上が私の留学体験である。2010年に地元広島に戻り、実家である杉田三郎建築設計事務所をベースにコンピュテーショナル・デザインの実務や、東京大学や広島工業大学での教育・研究に関わり今年で10年が過ぎ、最近やっとアメリカと日本の建築教育を俯瞰することができるようになってきたように思う。最後に2つを比較しながら総括し、留学を考える学生へのメッセージとしたい。

まず、明らかな違いは学ぶ環境が持つ多様性であろう。さまざまな年齢や人種の学生が同じ教室で学ぶのを想像してみてもらいたい。日本の教育環境の画一性は大学や大学院においても高く、縦や斜めの人間関係を構築するような機会が少ない。どれだけ大学の枠から飛び出て社会との接点を持つかが求められていて、そういった点においては、大学が成長の機会を与えることが出来ていない。

また、これは教育に限定されることではないが、言葉も通じない地に身を置くことが自分に負荷をかける1番の手段だということも知っておきたい。働く場でも、学ぶ場でも、過剰な負荷を与えにくい環境になってきている。新しいことに挑戦することや、背伸びして苦労することが強要されない今、自分を奮い立たせて自分の成長をコントロールしなくてはいけない時代に入った。留学は一つの決心で周りの環境を一変させることになり、その挑戦を乗り越えることで得るものは非常に多い。

最後は、視点や視野を鍛える意識である。これまでにも述べた通り、教員は指導する立場でありながら、学生と「一緒に考える」時間を大切にする。人気の教員は、学生の視点を引き上げたり、視野を広げることがとても上手い人だった。大人数を相手にした教育ではなかなか難しいことであり、少人数体勢での教育が非常に贅沢な学びであることを認識することになるだろう。また、なにもかもが新しい場所で生きていくということは、日々の生活を通して観察力や洞察力を研ぎ澄ますことでもある。こういった能力も建築を考える上では重要な武器となるだろう。

若い時に持つ好奇心は計り知れないパワーを持っているし、そのパワーは日本の中に収まるはずがない。その事実を留学経験者から次の留学生へと伝えていきたいと思う。もっと沢山の学生が海外に飛び出していき、世界の中の日本を眺める人に育っていくことを望んでいる。

杉田宗/広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授
1979年広島県生まれ。2004年パーソンズ・スクール・デザイン卒業。Rogers Marvel Architects(2005~2006, New York)、MAD(2006~2007, 北京)に勤務した後、2010年ペンシルバニア大学大学院建築学科修士課程を修了。2010年より杉田三郎建築設計事務所。東京大学Global30国際都市建築デザインコースアシスタント(2012~2014)を経て、2015年より広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授。専門は建築分野におけるコンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーション。『HIROSHIMA DESGN LAB』や『ヒロシマBIMゼミ』など、広島を拠点に教育・研究・実務を横断的に繋げる活動を展開している。主なプロジェクトは、gathering(2010)、かも保育園ハッチェリー(2019)、山根木材福岡支店 (2020)など。