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海外の建築教育 第7回:ペンシルバニア大学でのアルゴリズミック・デザインへの入り口

杉田 宗/広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授

パーソンズ・スクール・オブ・デザインへの留学、バックパッカー、そしてアメリカと中国での実務を経て、私は27歳でペンシルバニア大学の大学院に進学した。歳を取ってから大学院に行った人は職場にも多くいたが、日本の考え方からすると随分と異色に見られただろう。

ペンシルバニア大学があるフィラデルフィアはニューヨークとワシントンの間に位置し、全米5位の人口を抱える都市である。アメリカの独立期には国の中心となった場所で、アメリカの中でもボストンと並び歴史的な都市の一つである。古いまち並みが残りまち全体が観光名所のようになっているが、もっとも知られている風景は、映画「ロッキー」で主人公がジョギングで駆け上がる階段の上からの眺めだろう。この階段はフィラデルフィア美術館の正面玄関で、現在はロッキー像がそこに設置してある(ロッキーのポーズで写真をとるのが観光のお決まりコース)。また、ルイス・カーン(Louis Kahn)やロバート・ベンチューリ(Robert Venturi)がフィラデルフィラに拠点を構え、「フィッシャー邸」や「母の家」がこの地に作られていることから、アメリカの建築史を語る上でも重要な都市と言える。

  ペンシルバニア大学大学院(現在の名称はスチュアート・ワイツマン・スクール・オブ・デザイン)の最新の作品を紹介する映像

アメリカの大学院で建築を学ぶ場合、学部で建築を学びBachelor of Architectureを取得した人向けの2年間のプログラムと、それ以外の人を対象とする3年間のプログラムの2種類がある。Bachelor of Architectureは5年間の学部プログラムなので、Master of Architectureの修士号を取得するには合計7年かかるという点では同じである。私は学部でBachelor of Fine Artsを取得していたので、後者の3年間のプログラムに入った。ここには、情報学部や文学部出身のさまざまなバックグランドを持った学生が集まっているだけでなく、年齢や国籍も実に多様だ。この多様性がある環境で建築を学ぶことだけでも大きな価値がある。それぞれが得意なことが異なり、それを教え合いながら全体として個々の力を伸ばしていく環境であり、できる学生のスキルが自然に周りに浸透したり、またそこから新しいレベルに引き上げられたりする。単に競争が激しいのではなく、お互いの良いところを貸し借りしながら学びを深めている感覚だった。

大学院の3年間で6つのスタジオを取ったが、もっとも印象に残っているのは1年前期のスタジオである。私の担当教員だったレット・ルッソ(Rhett Russo)はコロンビア大学出身の若手建築家で、当時ペンシルバニア大学では1年生全体のコーディネーターとして設計課題の検討などにも関わっていた。その彼が最初の授業で「まち中のバイスクル・トランプを買い占めろ!」と言った時には何が始まるのか想像もできなかった。最初の課題ではトランプを折ってコンポーネントを作り、それを繋げて造形する演習だった。わざわざトランプでしないでも…と思うのだが、同じサイズの程よい硬さのカードは構造的にも丈夫でコンポーネントを作るにはちょうど良い。基本のコンポーネントのデザインが決まった学生は、折り方を微妙に変化させながらグラデーショナルに造形をコントロールすることを考え始める。その段階くらいから、隣の席の学生とペアになり、それぞれが考えた2種類のコンポーネントを組み合わせて新しいシステムに発展させていくのである。

最終プレゼンでは各自が作ったトランプ模型を壁に貼ったり、天井からぶら下げたりして展示したが、全員が同じ柄のトランプを使っているので植物園のような異様な雰囲気を醸し出していた。同じトランプでも折り方のルールでさまざまなデザインが生まれることを目の当たりにすると同時に、当時アルゴリズミックデザイン教育の中心となっていたペンシルバニア大学のカリキュラムにどっぶり浸かることになる。こういったスタジオ課題を通して思考とスキルを伸ばしながら、最終年のリサーチスタジオに繋がっていく。

杉田宗/広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授
1979年広島県生まれ。2004年パーソンズ・スクール・デザイン卒業。Rogers Marvel Architects(2005~2006, New York)、MAD(2006~2007, 北京)に勤務した後、2010年ペンシルバニア大学大学院建築学科修士課程を修了。2010年より杉田三郎建築設計事務所。東京大学Global30国際都市建築デザインコースアシスタント(2012~2014)を経て、2015年より広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授。専門は建築分野におけるコンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーション。『HIROSHIMA DESGN LAB』や『ヒロシマBIMゼミ』など、広島を拠点に教育・研究・実務を横断的に繋げる活動を展開している。主なプロジェクトは、gathering(2010)、かも保育園ハッチェリー(2019)、山根木材福岡支店 (2020)など。