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海外の建築教育 第15回:スイス連邦工科大学のComputer Aided Architectural Design(2/4)

ETHz CAADのプログラミング授業

石津優子/ジオメトリエンジニアリングラボ代表

前回、留学へ至るまでの経緯と、CAADの授業の特徴について触れた。今回は、全部で8つあるモジュールのうちの2番目と5番目にあたる、プログラミングの授業について紹介する。

授業は「Processing」を用いて学んだ。「Processing」はアーティストや学生などが簡単にビジュアルアートや電子アートをつくるための、Javaを単純化したプログラミング言語であり、統合開発環境だ。毎日朝から晩までプログラミングの授業があり、翌日に宿題を見せるという2週間の後に、与えられた課題を解くという授業だった。モデュール2は、クラス14人全員の課題としてグラマーというコンセプトが与えられ、各自がつくったモデュールを統合し、ひとつの都市をつくるというものだった。その後、チームに分かれ、各チームがコンセプトからプログラミングで作品をつくる。筆者のグループは、都市の自動生成を地形情報(高さ、勾配、ビジビリティ、用途)として取り込み、その情報をトリガーとして建物をつくる作品をつくった。

プログラミング授業の様子

モデュール2の成果物

モデュール5もモデュール2同様に2週間の授業の後に、各自課題をするスタイルであった。その課題は、「建設工法として3Dプリンターが当たり前になった場合、四角い建物でも複雑といわれる形でも、3Dプリンターによるノズルの動きや吐出量が複雑性を定義するだけで、“合理的な形”という概念が変わる」という前提に立って作品をつくるというものだった。その間にマイケル・ハンスマイヤー氏とベンジャミン・ディレンバーガー氏の「デジタルグロテスク」という作品のファブリケーションを手伝う経験をしたり、コンクリートの3Dプリント(当時はまだ珍しかった)の話を聞いたりしたことで、プログラミングで建設ロボットが動き、そのパスをデザイナーがつくるという未来を想像することができた。

モデュール5の成果物

プログラミングの授業では毎日コードに触れることができたが、筆者を含めた参加者のほとんどはコーディング自体が初めてという者ばかりだった。1日かけても同じエラーメッセージを見ているだけでなかなか進まないという経験を日常的に繰り返して、プログラミングの難しさ、そしてそのエラーを一瞬で解決し、アルゴリズムを実装し、かつ作品表現をする講師たちに非常に強い憧れを感じた。今も筆者は学びの途中だが、最近は建築系の仕事でもプログラミングを用いた業務というものが増えてきたため、今後の自分の成長に期待している。

「Digital Grotesque . Printing Architecture」Michael Hansmeyer, Benjamin Dillenburger

ちなみに、前回紹介した奨学生のルームメイトたちは全員理系だったため、数人が同じ統計学の授業を受けて、ビールを片手に、統計学用プログラミング言語の画面を見ながら議論をしていることが日常的な風景だった。筆者は統計学の授業を受けていなかったが、学内においてスタンダードな建築教育といえる建築学科所属の者以外は、出会う友人のほぼ全員が「Python」を理解しているような環境だった。ロボットを見に行ったり、生物学の実験で使う特殊な機材などを見に行ったりと、友人との交流が非常に楽しかったのを覚えている。世界トップの理系大学では、プログラミングの授業を受けることはどの分野でも当たり前なのだと、新鮮であった。

石津優子
神戸大学工学部建築学科にて建築意匠・環境デザインを専攻し、卒業。同大学大学院進学中にワシントン大学へ交換留学を経て修了。その後、スイス政府奨学生としてETHz ITA MAS CAADを修了。フリーランスとして建築系コンピュテーショナルデザインの経験を積んだ後、インハウスのリサーチャー兼エンジニアとして大手建設会社、不動産テックにてデザイン支援ツール作成やBIMデータを活用した業務支援ツール開発に携わる。2020年現在、GEL(ジオメトリエンジニアリングラボ)代表。『Parametric Design with Grasshopper』の共著者。