新建築 2020年11月号発売となりました !

海外の建築教育 第13回:行雲流水 @イギリス(5/5)

再び与太話

堀田憲祐/ぽ

イギリスは2010年から保守党が政権を握り、それまで移民に寛容だった方針から、イギリス人の雇用を優先する政策への大転換があった。ポストグラジュエートの学生にもビザが出ない方針に変わり、EU圏以外の多くの同級生は職探しに苦労していた。2020年のBriexitでEU出身者も同じ状態になるはずで、優秀な人材もイギリスには留まれなくなる。

友人たちは10年後何をしているのか、今はSNSがあるので10年たってもおよそ何をやっているのか分かる。ポストグラジュエートの修了生はバラバラの進路をたどる。いわゆる建築業界は半数程度で、そのほかは研究者、教育者、映画業界、ゲーム業界、国や地方の自治体、スタートアップで文房具をつくって成功している友人もいる。また、会社の資金で来ていた者は、電機メーカー、自動車会社などの企業に戻った。また、その者が帰属する物理的な「場所」はいまだに、社会の情勢、法律的、市場構造、メンタリティーなどの面で成果物に影響を及ぼす。加えて、日本国籍の私は想像もしなかったことだが、母国が政治的に不安定であったり、戦争や天災、あるいはマーケットがないという者が以外と多く、文化的先進国に留まることが目的の人も多かった。ただ、コロナ禍の今、あまり短絡的な結論は出すことができない。

ところで、筆者がイギリスで学んだ「Architecture」は日本語の建築物ではない。間違いなく、モノではない。モノはプロセスの中の一断面に過ぎない。プロセスとか、出来事といった人もいるが、私はそれだけでもないと思う。2020年においての結論として、アーキテクトとは「仕組みをつくり、系をはぐくむ者」のことである。スピノザ的な建築家信仰ではなく、仕組みを生成する者だけが「実体」であることを意味する。小難しいことを抜きに例を挙げる。某企業は、音楽を電話に取り込み購買システムまで一気にエコシステムをつくった。ハードウェアの形はバージョン4くらいからそれほど変わっていないが、機能はどんどん付加されつづけている。ハードウェアとソフトウェアは綿密に絡まり、バージョンアップを繰り返し、OSのアップデートで個体での進化、1年に1回程度のハードウェアの発表で世代進化も約束されている。そのプラットフォームは、消費者だけでなく、開発者まで巻き込みある種の「系」を形成した。この企業は、ドグマチックに大地をつくりながら、コラボレーティブに他者の参加を促す。そういった主体と客体の矛盾を統合する仕組みをつくることが、現代のアーキテクトの役目ではないだろうか。このデバイスは社会のあり方にまで影響を与え、国家が法律を使って分割しなくてはならないような存在になっている。

Nicholas Negroponte氏も、私がアーキテクトとして尊敬している人のひとりだ。
「A 30-year history of the future」:TEDより転載

海外での経験が現在にどのようなかたちで生きているのか?体面的な答えは、①アーキテクチャーの意味の拡張があり、②抽象論ではなく実際の道具(プログラム)を使って問題を解いていく力を身に着け、③職業分野を自分でつくり出す気概を学んだ、ことである。ただし、正直にいってこれらは後付けで、そんなユーティリタリアニズムな考えで遊学をしたのではない。パッションである、本当のパッションは抑えきれない。生きている意味も目的も分からないのに、行動の理由が説明できるはずもない。それならば、行く雲のように、流れる水のようにしなやかに。そうすれば、なにかオモロイことがあるかもしれない。

堀田憲祐/コンピュテーショナル・アーキテクト
日本生まれ、京都大学、東京大学、ロンドン大学、AAスクール修了、博士。日本においては日建設計・三菱地所設計などのプラクティスでコンピューテション業務を、2016年にコンピュテーショナルデザイン会社ぽを起業。また、アカデミアでは大学や研究所などでリサーチ活動も並行している。好きな家電は炊飯器。
筆者ウェブサイト:http://p-o.co.jp