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海外の建築教育 第12回:行雲流水 @イギリス(4/5)

AAスクールのマスターカリキュラム[後編]

堀田憲祐/ぽ

筆者がAAスクール最初の年に籍を置いたユニット「Emergent Technology and Design(以下、Em-tech)」は、生物学のロジックと近年のテクノロジーをもって建築や都市をつくるロジックを再定義しようというものであった。今回は、Emtechの特徴的なセッションを四つ紹介したい。

バイオミメティクス

レディング大学の「Centre for Biomimetics(当時)」のGeorge Jeronimidisが生物模倣の基本から応用までを理論として教授する。これは、生物の形やさまざまな制御システム、またその構成する小さな環境の系をよく観察・分析し、材料、工学、制御的に援用するという考え方である。(※1)たとえば、ハスの表面がなぜ濡れないのか、なぜ汚れないのか、斜面に斜めに生えた木は成長の途中で自身の向きをどうやって変えて天に向かっていくのか、そのような仕組みを科学的に説明する。また、単体だけでなく、シロアリの巣は何故いつも換気ができているのか(※2)など群知能的な側面も解説されるが、こちらは目下研究中でまだ議論の余地がありそうだ。履修者はテーマとなる生物を選んで、システムを計算機やフィジカルにモデル化するトレーニングを行う。筆者はコウモリの羽根のパターンを研究した。特に動く対象の研究は難しい。単一の目的に対しての解釈では説明しきれないからだ。

イマージェンス

直訳すると「創発」という意味であるが、実際のところは進化的計算手法と形態学(morphology)を絡めた思考実験である。ダーウィニズムを元に、ゲノム解読が終わった2000年代に、再び発展しつつある進化発生生物学、通称エボデボ(Evolutionary developmental biology)までの理論に触れ、実験する。具体的には、遺伝的アルゴリズム、エボデボや、エピジェネティクスの概念を援用して、ゲノタイプ(コード)とフェノタイプ(かたち)を発展させ、広義の環境で揺すって、分布を見る。エボデボは、世に出現している多様な表現型は4種の遺伝子情報だけでは説明不能で、発生の際に発動する別の仕組み(たとえばツールキット、ホメオボックス)があるということを意味する。またエピジェネティクスは、遺伝子が表現形を作るために環境とどうインタラクションしているか、という仕組みである。これら現在進行形の生物学の理論を、胚に見立てた幾何に適用し、シークエンシャルな実験で確かめてみる。(詳しくは『Emergent Technologies and Design』の第一章にある)ニューラルネットワークなどもそうだが、モデルによる試論であってもそこから機能する仕組みが生まれれば、工学的にはよきことである。

1to1の実物の製作

小規模の構築物をつくってみるという流行は、当時のAA_DRL、AA_Em-tech、その後AA_D&Mなどのプログラムが先陣を切ったのではないだろうか。少なくとも、日本での建築デザイン/計画の教育は図面や縮小模型をつくって終了ということが多かったと思う。しかし先述の『Morpho-Ecologies』で述べているように、①マテリアルのふるまいそのものが検証されるべき対象になったこと、②CAMやCNC、3Dプリントなどの発達、一般化が進み、デザインとファブリケーションが切り離せない問題になってきたことを理由に、試みとして始まり定着した。またその発展として、自身でファブをハックして、マテリアルと同時にコンストラクションまでを一気通貫にデザインするという、ブレイクスルーがあった。

プログラミング

この学校のプログラミング教育は、ディプロマレベルだとCAD+αによる形態操作が中心であったが、ポストグラジュエイトは、ブリコラージュだけでは学位はもらえない。マスターであると、さまざまなツールのチュートリアルがあるか、なければ自分で学ぶ。さらに課程が進むと、自分でザクザク書いてソフトを作っていくことになる。プログラム言語に貴賤はないのだが、都度、シンタックスやプラグイン/ライブラリなどの流れを見ながら、柔軟に対応していくしかない。当時はZHAとARUPに在籍している若いOB/OGがソフトウェアチュートリアルを担当しており、MS+GC, MAYA-script, RH-script, RH+GH,およびPython講座は記憶にあるが、10年も経つと時代遅れかもしれない。

「Emergence: Morphogenetic Design Strategies – Part 1」 :AA School of Architectureより転載

私の知る限り、2000年代はソフトウェアベンダーと実務家がバラバラの文脈で、CAD+ビジュアルプログラミング、あるいはパラメトリシズミックなツールをどんどん開発してきたが、その道具をどういう風に使う「べき」か、ということに関してはほぼ白紙委任状であった。そんななかMichael Weinstockは生物学の進化論的ロジックを、人工物のデザインに適用しようとするアジェンダを掲げ、著作(※1)を連発した。ケンブリッジ的、あるいはホワイトヘッド的というべきかな有機体的自然観をベースに、人間/建築(ここにも件の誤謬はあるかもしれない)を中心にモノを考えるのではなく、系の中にそれがあることを強調し、アプライしようとした。生物学や生物模倣技術というと形態の模写であるような印象を受けるかもしれないが、それだけではなく進化や発生時の分化の「手続き」の操作という意味も含んでいる。むしろ彼は、形をつくろうとすると嫌がった。

※1;Weistock,M,The Architecture of Emergence: The Evolution of Form in Nature and Civilisation(2010)

※2;Turner,J.S,The Extended Organism: The Physiology of Animal-Built Structures (2000)

参考:
ショーン・B・キャロル/著 経塚淳子/訳 渡辺政隆/訳『シマウマの縞 蝶の模様』(2007)

C.H.WADDINGTON, CANALIZATION OF DEVELOPMENT AND THE INHERITANCE OF ACQUIRED CHARACTERS, Nature volume 150, pages563–565(1942)

堀田憲祐/コンピュテーショナル・アーキテクト
日本生まれ、京都大学、東京大学、ロンドン大学、AAスクール修了、博士。日本においては日建設計・三菱地所設計などのプラクティスでコンピューテション業務を、2016年にコンピュテーショナルデザイン会社ぽを起業。また、アカデミアでは大学や研究所などでリサーチ活動も並行している。好きな色は限りなく不透明に近いレッド。
筆者ウェブサイト:http://p-o.co.jp