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海外の建築教育 第10回:行雲流水 @イギリス(2/5)

UCLバートレットAACのカリキュラム

堀田憲祐/ぽ

第2回は、UCLバートレット校のカリキュラムの話である。松尾スズキも言ったが、今本稿を書きながらも、この情報は過去完了的に古くなっている。校風がどうの、というのはボンヤリと記憶にあるが、あまりあてにならないだろう。その一つめの理由は、具体的には後述するが、同じ校名の元にまったく専門の違う専攻が設けられている点。筆者はデザイン専攻から空間分析専攻に転部したのだが、するとまったく違う内容が、まったく違う哲学によって教授されていた。二つめはユニット制なので結局はユニットマスターの塩梅になることが挙げられる。特にディプロマについては最短1年で講師が入れ替わる可能性がある。受講者は、学期の初めにユニットを選択するための全体会議に参加し、講師がプレゼンしたアジェンダによってユニットを決める。私はポストグラジュエートだったのでぼーっと眺めていたが、周囲の学生らは希望のディプロマコースを受講できるかどうか、大変そうであった。

2019年の学部長にはAlan Pennが就任していた。

UCL全体を紹介することは荷が重いが、日本では夏目漱石の留学先としても有名である(ただし、1800年代にできた学校をだれが本当に知っていようぞ)。その11の学部のなかの一つに、「Built-Environment(構築環境学とか人工環境学とでも訳すべきか)」を司るバートレット校がある。1841年にイギリスで一番最初の構築環境学の学部として設立され、のちにバートレット卿にちなんでその名が与えられたのが1919年とある。私は、5部門に分けられた専攻のうちCentre of Advanced Spatial Analysis(CASA)に属していた、Adaptive Architecture and Computation(AAC)というコースを修了した。現在は所属をSchool of Designに移しArchitectural Computation(AC)というコースに統合されたようだ。名は変わったが、時代の淘汰を免れて分野が確立されたようで感慨深い。

AACは当時創設されたばかり(2005〜)で、コンピュータ・サイエンティストであるAldsair Tunerがディレクターを勤めていた。既存学問体系のなかに、分析だけでないコンピュータの使い方の筋道をつけようという気概がたゆたっていた。そのアジェンダは、社会的・空間的(人工)環境に内包されているインタラクティブな体験をコンピュータを使って適応的にデザインする、というものである。たとえばTunerのエージェントを使ったスペースシンタックス(※1)の新たな展開とそれがつくりだす創発的なデザイン手法、気鋭のSean HanaAntony Gormleyと協働したアートワーク、『nature』の御大Philip Ball(氏は化学の学位も持つ)が反応拡散系で動物の模様について解説など、すべてが今のキーノートレベルである。コーディングもフィジカルコンピューティングも、基本的な理論もなるべく体系立てて教え(ようとし)ていた。当時リーマンショックの直後で、受講者も仕事を休んで勉強に来ているようで、学生というよりかはセミプロ、ペーペーであった私は正直なところ気後れした。

ここで、特徴的だったセッションを三つほど紹介する。

➀コーディング;
プログラミング言語を一から学ぶ。当時はJAVA派生の言語を使っていた。建築の教育しか受けてない私は、いきなり直打ちであったので正直ハードルは高かったが、この時期にコンピュテーションでは常識となっているセミナルコードに直に触れることができ、今でもその素養は役立っている。最後にビデオを作成し、「Kunsthaus Graz」のBIX Communicative display skinに投影するインスタレーションを行った。

自分の作品の映像は残っていなかったが、撮影時は嬉しかったことを覚えている。私はなんて素直なんだろうと感動した

②フィジカル・コンピューティング;
マイクロ・コントローラを使用して、インプットとアウトプットの実践をしながら基本概念を学んだ。今でいうIoT/ユビキタス的な知見はここで学んだ。当時はJAVAベースの言語でArduinoなどに実装し、最後にArupで展示会をした。センシングとアクチュエイティングによって物理空間と情報空間がインタラクトできることに、また情報空間にも空間の概念があり、しかも自分で組み立ててよいことに感銘を受けた。VRセンターの研究はもとより、部門は違うがGregory BatesonやErving Goffmanの流れを受けたStephen Gageの影響であることは記しておかなければならない。また坂村健が、なぜ建築家をよく引用するのか理解できた気がした。

③都市のセンシング;
都市をセンシングする、という今風アジェンダ(15年前!)で、当時やっとBluetoothが携帯電話に搭載されつつあったので、先述のArduinoで専用の受信機を作ってトラッキングを試みた。研究員共々、西部のバースに出張し、回遊性のある街路で、どのように人が流れているかを追跡した。背景にはCASAに脈々と続く都市解析(1980年代~)の大枠があり、Axial/DepthMapやmulti-agent system(MAS)などと比較し、諸々の分析・シミュレーションと、現実の人流がどれほど対応しているかなどを検証する意義があったらしい。

UCLバートレット校とAAスクールは、多くの文教施設が集まるブルームズベリーと呼ばれるエリアに位置する。そのガウワーストリートの一帯には、ダーウィンの名を冠した施設が鎮座している。古くは神学的な意味でリベラルな人が集まったといわれているが、現在も広義ではそうなのではないかと思う。いわゆるライバルにも見える両校だが、人材は流動的である。学生も講師も毎年だれかと(便宜的に)喧嘩して、あっちへこっちへ忙しそうだった。両校共に若い講師を積極的に採用していて、近い世代同士よく対話ができていた。しかも、あまり前には出てこないがベテランの教授が毅然と居るという、一枚岩の環境であった。筆者は森毅的ノンポリだが、思想が自由なぶん時々とんでもない事件が起こるので、文句をいうときはいわねばならんのだなあ、と思った。

※Hillier B. and Hanson J. (1984), The Social Logic of Space, Cambridge: Cambridge University Press.

サムネイル:
The Bartlett School of Architectureより転載

堀田憲祐/コンピュテーショナル・アーキテクト
日本生まれ、京都大学、東京大学、ロンドン大学、AAスクール修了、博士。日本においては日建設計・三菱地所設計などのプラクティスでコンピューテション業務を、2016年にコンピュテーショナルデザイン会社ぽを起業。また、アカデミアでは大学や研究所などでリサーチ活動も並行している。怖い動物はスズメバチ。
筆者ウェブサイト:http://p-o.co.jp