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海外の建築教育 第4回:イノセンスの終焉 ---End of Innocence

カズ・ヨネダ/Bureau 0-1

ハーバード大学GSDでは従前のオプションズ・スタジオにリサーチ面を強化し、リサーチ・スタジオと銘打って、デザイン・プロセスにおける分析、研究やその新規性の重要度を明解にしている。そういう意味では幸い筆者は、その姿勢に基づいた教育指導を実践していたジョージ・ルジャンドル(George Legendre)、セィロ・ナハレ(Ciro Najle)、アントワーヌ・ピコン(Antoine Picon)、サンフォード・クインター(Sanford Kwinter)、エリカ・ナジェンスキー(Erika Naginski)、マイケル・ヘイズ(Michael Hays)、そしてモーセン・モスタファビ(Mohsen Mostafavi )などの教授や上席教員に指導を受けられたのは一生涯の宝になろう。特にジョージ・ルジャンドルやセィロ・ナハレのスタジオは、AAスクールで育まれた厳密なプロセス重視のデザイン手法やランドスケープ・アーバニズムといった概念とその理論による都市デザインなどを研究できた。建築史家エリカ・ナジェンスキーには、ユートピア思想の、現代にも通用する普遍的な批評姿勢を介した創造の重要性を教えられた。

客寄せパンダ的なスターキテクトを招聘した非常勤の客員教授は、大抵の場合避けたほうがいい。往々にしてセミスターに2、3回会えるか会えないかが関の山だ。実際に指導するのは助教か助手の類で、スターキテクト本人から直接なにか伝授されるのはほんの一握りの院生であろう。ましてやそこ基準で大学院を選び、覚えめでたく院後の就職に繋げようなんざとんでもないことだ。まあ、その姿勢で挑んでも結構だが、せめて己の無知を計って学ぶことは学ぼうぞ。そのために年間、実費五百万円くらいの学費を払っているのだから。もし招聘客員教授を選ぶのであれば、よほど教育熱心な若手か中堅のプラクティショナー(設計実践者)や研究者であり、なおかつ、興味がそそられる方法論、設計課題シラバスや研究トピックが揃っている人でいればお勧めできよう。

最後に筆者からの助言をお伝えする。どの学部に行ったとか、どの院に行ったかということ自体、人生を俯瞰すればまったくもって小事である。大事なのは、結局その学位やデグリーをもってしてなお、その後なにを成し得たいか、またはなにを成し得られたか。現に筆者は、未だ最低賃金と仕事の少なさと闘う毎日である。輝かしい成功の兆しなどいずこたるや。それほどに長く、道なき茨の道なのであろう、建築とは。学部や修士時代、そして社会人として現在に至るまで、ナイーブでロマンチズムに満ちた甘美な物語など口が裂けてもいえない。嘘になるから。これが現実だ。 受け入れる気構えがないのなら、耐える自信がないのなら、建築なんぞやらないでいい。生半可な覚悟で建築の道に入ってほしくない。心身ともに疲れ果て、場合によってはボロ雑巾のように使い捨てられることも多々横に見てきた。この世はすでに建築士でサチュレーションしている。建築家になることを夢見て志すものが多いのであろう。まあ如何せん、筆者もその一人なのだが…ただまだなにも成し得てない、やりたいことが山ほどある、進むことしか知らないただの猪武者。

YouTubeのHarvard GSDチャンネル。カンファレンスや一般向けのプログラムなどさまざまな動画が公開されている

カズ・ヨネダ/Bureau 0-1 主宰
ワシントン州生まれ、カリフォルニア州育ち、建築家。
コーネル大学建築学科B.Arch卒業、ハーバードGSD大学院修士M.Arch2課程修了。
伊東豊雄ハーバード@東京スタジオの立ち上げに参画するため2011年に渡来。Takramのアソシエイトディレクターを経て、2014年にbureau0-1を開始。2018年には、法人化を経てBureau 0–1株式会社。 プラクティスのかたわら、教育や研究にも積極的に取り組む。現在、慶應義塾大学、日本女子大学、法政大学、早稲田大学、ハーバード大学GSDで講師を勤め、国内外に活動の場を広げている。主なプロジェクトに、大和ハウス工業Intelligent Logistics Center PROTO、Takram表参道スタジオ、dOCUMENTA(13)で展示したShenuなど。