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コンピュテーションが生む創造的思考 第1回:イントロダクション

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー

「コンピュテーション」は複雑な問題を解決するための計算機を用いた計算方法の一つであるとされている。身近なところではExcelなどの表計算など、利便性や効率性のために用いられているが、そういった価値とは異なる側面での価値があるのではないかと最近考えている。それは、コンピュテーションの手続きを経ることによって生まれる創造的思考である。

メディア理論家のレフ・マノヴィッチは『ニューメディアの言語―― デジタル時代のアート、デザイン、映画』(2001年)で、以下の「ニューメディアの五原則」を提示しているが、筆者はこの五原則がコンピュテーションによる現代建築の進化に大きなヒントを与えてくれるだろうと考えている。

1. コードによる表象
2. モデュール
3. 自動化
4. 可変性
5. トランスコーディング

「コードによる表象」は記号学の次の手法として、表象を実装を伴う言語によってコード化可能かという問題を提起し、「モデュール」はデジタル制御やマスカスタマイゼーションのための単位化を促す。「自動化」は設計と機構の自動化やセンシング技術によるリアルタイムのインタラクションの可能性を示し、「可変性」は機構としての可変性や改修可能性など時間軸による建築の価値を提起する。「トランスコーディング」は表象の背景にあるデータがコンピュータ特有のデータ構造によって記述され、建築やエレメントがデータ構造化されて記述されることを示唆する。コンピュータサイエンスと建築の融合によって現代建築は間違いなく進化していく。しかし、どのように進化させるかの方向性を指し示す必要があるだろう。

ノーテーション(記譜法)に話を移そう。たとえば建築図面というノーテーションは幅広く用いられているが、それは一種の抽象化のプロセスといえる。建築と音楽のアナロジーでノーテーションと創作の変化をみていくと、それぞれの時代による変化を俯瞰的にみることができる。かつて音楽分野でMIDI(Musical Instrument Digital Interface)やDTM(Desktop Music)環境が開発されたのと同様に航空分野や建築分野でCAD(computer-aided design)が開発され、MAX/MSPというビジュアルプログラミング言語が開発されたのと同様に、Rhino/Grasshopperが開発された。このような言語を用いてこれまでと同様の制作物を設計することは可能である。しかし、これらの新しい言語を用いたノーテーションという枠組みをこえて、コンピュテーションそのものが思考や理論につながることはあり得るだろうか、というのが筆者の関心事である。

たとえば音楽家のBrian Enoの作品で、CDなどの固定化された音源ではなく携帯端末のアプリケーションがメディアであり、視聴者のインタラクションによって音楽が無限のバリエーションで生成される作品の「Bloom」は、この時代でしか存在し得ないような現代的作品といえるだろう。コンピュテーションによって刺激された思考や創造性が、このような作品を生むきっかけになったと考えられる。

「Brian Eno & Peter Chilvers discuss Bloom: 10 Worlds」:generativemusicappsより転載

今回連載するコラムでは「補助線」、「形態操作」、そして「空間制御」の3つのアップデートに着目して進めていこうと思う。自作とそれに関連する事例を中心に、創造的な思考を生むコンピュテーションについて考えてみたい。

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー
1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築をめざしている。
筆者ウェブサイト:aki-hamada.com