新建築 2020年11月号発売となりました !

建築におけるコンピュテーショナル・デザインの系譜 最終回:複雑さ/動き/自然の系譜 そして現在[後編]

情報を媒介に多中心から組み替えられていく世界

木内俊克/木内建築計画事務所代表

建築におけるコンピュテーショナル・デザインの系譜において、今一度これまでどんな新しい概念や視点が発見され現在に至り[コンピュテーション]、そしてその実装や展開に向けてどんな技術的な拡張[コンピュータライゼーション]が現在進行しているのかをより細やかに見ていくことで、その先に私たちが取り組み得るコンピュテーションの可能性をイメージする。その試みをもって、ここまで8回にわたり執筆してきた本コラムの締めくくりとしたい。

複雑さの系譜

第2回で複雑さの系譜の源流として論じた「Deconstructivist Architecture」の建築家に共通する態度として、「既存の建築空間を解体するような形態操作が、(中略)既存の建築言語が既存のまま別のものに読み換えられていくような作用をもっている」ことをマーク・ウィグリーが指摘したことはあらためて意義深い。つまり、複雑さの系譜の原点には、現実の複雑さを一旦キャンセルして別のものに置き換えるのではなく、複雑さをそのまま取り扱い可能な情報に置き換え、その系の中に入り込み、内側から制御や変化を与えていくアプローチに核があったということだ。
そこで00年代以降を見ていくと、2007年に竣工したヘルツォーグ・ド・ムーロンによる「40 Bond Street」のファサードに思い当たる。アールヌーヴォーを彷彿させるキャストアルミニウムによる工芸的なゲートが取りつけられているが、その幾何学的なパターンの原型はニューヨークのストリートに典型的なグラフィティであると述べられており、インプットされたグラフィティの2次元パターンを立体的にデータ変換したうえでデジタルファブリケーションにより加工することで同ゲートは製作されている。また筆者がパリの設計事務所R&Sie(n)で働いていた2010年当時、ヨーロッパでは洋式建築の装飾や複雑に曲がった樹木を建築部材として用いた伝統建築などの修繕にデジタルファブリケーションが活用される事例がすでに散見されていた。
この「40 Bond Street」、伝統建築のデジタルな修繕の事例とも、複雑さの系譜が「読み換え」てきた対象という観点から整理すれば、どちらも「読み換え」られるべき「既存の建築言語」の対象が、伝統的な建築や偶発が折り重なる都市の日常的風景にまで拡張されたことを示しているといえまいか。またその意味で、2017年の作品である中山英之+sunayama studioによる「かみのいし」は、どこにでもある石ころ一つひとつの固有性と複雑さを、デジタルによる計測と人間の認知をハイブリッドした方法により丁寧に読み取り、その色彩と抽象化した幾何学をデジタルに拡大してスケールレスな家具や建材として用いる試みで、対象の拡張という観点から複雑さの系譜の今日的な展開として指摘できるだろう。

動きの系譜

建築を動的なシステムとして捉えるという明快なテーマは、Self Assembly Labや前回紹介したグレッグ・リンによる「gita」のようなきわめて近未来的な焦点を結び得れば、一方で環境技術的なアプローチのなかに見られるように、建築自体はパッシブな動きのみを取るものの、外的な環境の変化や環境制御により、温湿度や風、光環境自体の変化と共に「動く」建築にも、今日的な展開を見ることができる。「動き」の系譜の直接的な源流となった60-70年代のラディカルアーキテクチャーにおいても、セドリック・プライスに代表される動的なイメージと共に数多くの環境的なプロジェクトが提示されていたことは、その下敷きとしていま一度着眼されるべき事実でもある。そしてこれらパッシブな「動き」の実現には、やはりデジタルなシミュレーションは欠かすことのできない決定的なツールとなってきた。近年、台湾の「Jade Eco Park」を完成させたPhilippe Rahmは、その意味でラディカルなアプローチを提示している。Jade Eco Parkでは、Transsolarと共同し、公園内に環境制御装置を分散配置するマスタープランニングのレベルと、各装置の近傍のデザインを行う、ローカルな環境制御のレベルの双方でCFDシミュレーションを用い、刻一刻と変化する動的な環境そのものが設計されたことが述べられている。そこでは建築的なしつらえはあくまでミニマルな装置的ふるまいにまで後退し、触覚的で可変な空気の分布イメージが空間の骨格として提示される。Diller Scofidio + Renfroが2002年に実現した「Blur Building」の段階では仮設的なパビリオンとして建設された動的環境としての建築が、15年を経て恒久的な建築としての実現に至ったといえるだろう。もちろん、ここで指摘している環境に応答してパッシブに「動く」建築の試みは、必ずしも動的な環境のみを前面に打ち出すラディカルなアプローチではなくとも、巧みに一般の建築設計に統合されたかたちで実現した事例が出てきていることは指摘しておきたい。

Diller Scofidio + Renfro による「Blur Building」の雲が移り変わる映像

自然の系譜

自然の系譜については、第7回のコラムで文字数の許す限り詳細に、現在における展開を紹介しており、あらためてそちらを参照いただきたい。本稿でつけ加えるならば、必ずしもコンピュテーショナルなアプローチを取らずとも、関連づけて論じたい試みについてだ。Anne Holtropは、Material Gestureと呼ぶ素材が生みだすふるまいをアルミニウム鋳造をはじめとしたキャスティングの技術により建築の部材に転写し、そうして生みだされた自律的な部材の群から建築を構成していくアプローチを展開している。なお建築から外れるが、2018年に発表されたアーティストのMatthew Barneyの作品「Redoubt」では、同じく鋳造の技術を駆使しながら、そこにCNC研削による木材加工を組み合わせた、制御と非制御の交錯する彫刻が発表されており、同時代的なアプローチとして興味深い。設計という行為の全体から見れば、ある意味制御の効かない自律的な造形や特性を生みだすプロセスをあえて取り込み、そのプロセスを建築として定着させるなかで既存の建築の枠を解体する手続きは、現実の抽象化により得たモデルを計算空間のなかでドライブしてその可能性を探索する自然の系譜のコンピュテーション的アプローチと、目的やその手つきにおいて近似している。筆者が形状シミュレーションを担当した、萬代基介による「Prototyping in Tokyo」展の会場構成は、3.2㎜厚、幅840㎜、つないだ状態で最大長さ8.5mにおよぶ平らで薄い鉄板に、高さ違いの脚を取り付けることで自然と形成される曲面を、そのまま波打った形状としてデザインするというもので、Holtrop同様、筆者の観点からは自然の系譜の今日的な展開として位置づけられるものだ。設置して波打った形になった時にちょうど取りつけた脚が垂直になるよう、平らな鉄板に対して、それぞれの脚は少しずつ微妙に角度をつけて溶接されており、その取りつけ角度はコンピュテーショルな形状シミュレーションにより精緻に予測され、実現されている。そしてこれら一連のアプローチは、もはや建築という全体性にではなく、部分自体に自律的な建築のふるまいの根拠を定位し、建築という単位自体を組み換えていく作用をもっている点でもきわめて興味深い。

Mathew Barney「Redoubt」のYale University Art Galleryによる紹介映像。後半40秒台付近に彫刻作品も紹介されている

多中心的に並置される建築の「読み換え」可能性

本稿では、今一度複雑さ/動き/自然の系譜の現在形を掘り下げ、各系譜のなかに見いだされる微細な、しかし確かに建築をかたちづくる概念の、次なる更新に繋がる機微を捉えることを試みた。そしてそこには、それぞれの系譜で見いだされた建築の読み換え可能性が、多中心的に並置され、今まさにネットワーク化されつつある状況を確認できたといえないだろうか。複雑さを読み込むべき対象が歴史的建造物や日常の風景にまで拡張され、環境まで含んだ建築に関わるあらゆる動きがシミュレーションにより予測、あるいは計測のうえフィードバックが与えられる。そしてフィジカル、デジタルに関わらず(XR=仮想/拡張/複合現実に代表される技術領域にとっては、今やフィジカルな事象とデジタルなモデルは双方向的になりつつある)、さまざまなふるまいを生成する物質や現象、モデルが、建築の概念を更新するアクターとしてつど召喚されては、部分は自律的にふるまい、建築の単位が組み換えられる。

重要なのは、コンピュテーションの系譜が成し得てきたことは、どの系譜においても既存の建築の概念を解きほぐし、それぞれの仕方でその「読み換え」を促す作用をもってきたということだろう。そして情報という回路を経由することが、その「読み換え」可能性を拡張してきたという点だ。またそれゆえに、それぞれのアプローチは情報のモデルであるという事実を起点に相互乗り入れが可能であり、事実多くのコンピュテーショナルなアプローチは、常に複合的な部分の入れ替えや組み替えを伴う編集的な手つきによりバラエティーが生み出されてきた。

2020年現在、社会に大きなインパクトを与え続けているCOVID-19で浮上した問題系を一意に定位することは困難だが、人間自体の移動可能性が制限される状況が続いていくとして、室外に室内的な可能性をいかに読み込むことができるか、室内に室外的な性能を与えることはどうか、あるいは住宅と近接するローカルな環境の連携可能性を多様に読み換えていくことは可能か、また情報のみの共有により再配分可能なリソースについてはどう最大限それをアクセス可能なものにしていくのか、といった問いをその一部として挙げることはできるだろう。そしてコンピュテーションがその答えを与えてくれるとは到底いえないが、既存環境のかつてない読み換えが求められているいまだからこそ、これまでの試みをジャンプボードに、その先に可能性を紡ぐことには意義があるはずだ。

そして今一度、本稿で試みてきたコンピュテーショナル・デザインの系譜の延長に見えるヒントを付け加えるとすれば、建築の概念をそれぞれに読み換えていく多中心的な視点の相互的媒介は、何により加速し、また持続的に維持されうるのかという問いは重要だろう。その可能性を拡張するコンピュータライゼーションの探索にフォーカスしていくことが、次に訪れるコンピュテーションのブレークスルーを準備するということが、取り急ぎ筆者が辿り着いた、本稿を通しての私見である。

サムネイル:
「Matthew Barney: Redoubt」 :Yale University Art Galleryより転載 ©Matthew Barney

木内俊克/木内建築計画事務所代表
東京都生まれ。2004年東京大学大学院建築学専攻修了。Diller Scofidio + Renfro (2005〜2007年、New York)、R&Sie(n) Architects (2007〜2011年, Paris) を経て、2012年より木内俊克建築計画事務所(現・木内建築計画事務所)を設立。
舞台美術・建築から、パブリックスペース・都市計画に至るまで領域横断的なデザインの実践を行う。2015年~2020年には、東京大学Design Think Tankにて都市界隈の類型化と人々の関心のデータ的把握、及びそのプロセスを通した都市介入についての研究を担当するなど、建築・都市における情報学的領域の教育/研究活動に従事。
代表作に都市の残余空間をパブリックスペース化した「オブジェクトディスコ」(2016)など。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示参加。