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建築におけるコンピュテーショナル・デザインの系譜 第7回:自然の系譜[後編]

物質のふるまいから探索する形

木内俊克/木内建築計画事務所代表

建築におけるコンピュテーショナル・デザインを「自然」の概念から紐解く系譜として、葉祥栄を経由して、その源流をフライ・オットーに求める流れを第6回コラムで辿った。

オットーは、2015年にプリツカー賞を受賞しており、「ミュンヘンオリンピック競技場」や「マンハイムの多目的ホール」といった代表作を世に送り出した1970年代から40年以上の時を経て、今ふたたび着目を集めている。『建築雑誌』2020年6月号では、「建築と生物学の接点―多目的最適化をめざして」と題した特集が組まれており、アール・ヌーヴォーやメタボリズムと並ぶ主要な参照点としてオットーが言及されている。同特集で最新のコンピュテーショナル・デザインの実験的試みへのオットーの影響が指摘されているが、ではその代表例といえる2010年代に活性化した世界各国でのパビリオン建築の数々は、90年代の初期コンピュテーショナル・デザインから00年代を経ていかに準備されたのか。そこで浮かび上がるのが、00年代におけるロンドンのAAスクールを中心としたアカデミックなリサーチが果たした役割だ。

アキーム・メンゲスのサイトより、Urbach Tower(2019,シュトゥットガルト大学 ICD)とContinuous Laminae(2004-05, AA School) の比較。木材の乾燥過程の変形をデザインに生かすアプローチの源流を既にAA Schoolの試みに見ることができる。

ここで今日のコンピュテーショナルなパビリオン建築のアーキテクト/リサーチャーの代表格であるアキーム・メンゲスの経歴に着眼したい。2002年から2012年までをAA Schoolにて教鞭をとり、2008年からシュトゥットガルト大学ICDのディレクターに就任している。そして2010年を境にその前後の作品群を比較すると、10年代以降にICDでのロボットアームの導入を経て大規模化していくパビリオン建築群の取り組みのほとんどが、その初期的なアイデアとスタディを00年代のAA Schoolでの試みを元にしていることが見えてくる。00年代は、90年代におけるコロンビア大学でのペーパーレス・スタジオを受けて、メンゲスも在籍していたAA SchoolのEmTechDRL(Design Research Lab)を皮切りに、世界各国の大学でデジタル・スタジオが設立された時期であった。これら各国のアカデミックな環境でのデジタルツールを生かした設計の試みは、インターネット上でダウンロードできるマニュアルやプログラム、その利活用についてオンラインでディスカッションするコミュニティの蓄積につながり、加速度的に建築におけるコンピュータライゼーション/コンピュテーションのレベルを押し上げた。

今一度、オットーからメンゲスに続く系譜に戻ろう。上述の00年代のアカデミズムでのデジタルツールの実験における豊富な経験を得たメンゲスが、物質の「自然」なふるまいから建築の形態を探索するリサーチ・プラットフォームをオットーがつくりあげていたシュトゥットガルト大学に着任し、「自然の系譜」のコンピュテーショナルな展開は一気に加速した。2012年にメンゲス率いるシュトゥットガルト大学ICDが、カニなどの甲殻類の殻が繊維の集まりからシェルをつくるアプローチを建築スケールで模倣する試みを、コンピュテーショナル・デザインによる製造データ生成とロボティクスを用いたファブリケーションにより実現したパビリオンを発表したことは、当時衝撃的な印象をもって世界に迎えられた。MITでネリ・オックスマンが2018年に発表した、キトサンを主成分としたマテリアルによる3Dプリントで、水にゆっくりと溶解して自然に帰ることのできる樹脂構造の提案は、同じ系譜に位置付けられる試みの直近の事例だろう。

また、物質の自然なふるまいを建築の形にそのまま生かすアプローチという点で、筆者が2013年に東京大学Advanced Design Studies(以下、T_ADS)で担当したNinety Nine Faliures | DFL Pavilion 2013も紹介しておきたい。

Ninety Nine Failures | Digital Fabrication Lab Pavilion 2013, T_ADS

プロジェクトは、平らな地面の上でつなぎ合わせた構造体をクレーンで吊り上げると、吊り上げられた形が、そのまま最終形のシェル構造の形になるというデザインを試みたものだ。また構造体の部分を構成する、一つひとつのコンポーネントも、薄いステンレスの板をエッジのみ溶接してつくられた部材を水圧により膨らませ、自然に生まれる形をそのまま最終形状とするよう、シミュレーションによりデザインされている。3次元の形を複雑な治具や仮設資材を浪費してつくるのではなく、あくまで2次元で経済的に組み立てたものを、吊ったり膨らませたりすることで生まれる形を、そのまま建築の最終形に生かしていく、そのような考え方だ。

また、ふるまいを形にするという意味では、日本ではdouble Negatives Architectureの市川創太や、ATLVの杉原聡らが取り組んでいるエージェント・ベース・モデルのアプローチにも言及すべきだろう。計算機内に設定された抽象的なエージェントの群が、決められたルールの中で互いに影響し合いながら鳥の群れのような複雑な挙動を見せるシミュレーションツールを、建築の部品がそれぞれに求められる機能や構造的なふるまいを互いに調整し合うことが求められるケースに応用することで、建築を特定の方向に最適化していくようなアプローチだ。

90年代に生まれ、00年代に先駆的なアカデミックへの導入がおこり、10年代に普及・実験期を経て現在に至るこの「自然の系譜」は、現実の抽象化により得たモデルをドライブしてその可能性を探索するというアプローチを取ることから、きわめてコンピュテーション的だ。そしてその可能性は、普及・実験期から実装段階に入っていくこの20年代においてこそ、その真価が問われていくだろう。


サムネイル:
Ninety Nine Failures | DFL Pavilion 2013,東京大学建築学専攻Advanced Design Studies,©Hayato Wakabayashi

木内俊克/木内建築計画事務所代表
東京都生まれ。2004年東京大学大学院建築学専攻修了。Diller Scofidio + Renfro (2005〜2007年、New York)、R&Sie(n) Architects (2007〜2011年, Paris) を経て、2012年より木内俊克建築計画事務所(現・木内建築計画事務所)を設立。
舞台美術・建築から、パブリックスペース・都市計画に至るまで領域横断的なデザインの実践を行う。2015年~2020年には、東京大学Design Think Tankにて都市界隈の類型化と人々の関心のデータ的把握、及びそのプロセスを通した都市介入についての研究を担当するなど、建築・都市における情報学的領域の教育/研究活動に従事。
代表作に都市の残余空間をパブリックスペース化した「オブジェクトディスコ」(2016)など。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示参加。