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建築におけるコンピュテーショナル・デザインの系譜 第5回:動きの系譜[後編]

幾何学に内在する動きとコンピュテーション

木内俊克/木内建築計画事務所代表

チャック・ホバーマン(Chuck Hoberman)のプロジェクト群をつぶさに見ていくとき、その真骨頂はスケールの横断性にあることに気付く。ホバーマンスフィアの原理を担う一組のシザー機構が、人の両手で持つことができる玩具から、建築的スケールのシェルに至るまで一貫して採用されている。シザー機構の本質がその幾何学にあることが、スケールレスな応用可能性を担保している。むろん幾何学は拡大縮小でき、その応用範囲は理論的には無限大/無限小だ。そしてこの一連の指摘は、第4回で言及したリチャード・バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller)のジオデシック・ドームにもまったく同じことが言える。フラーが切り開いた「動きの系譜」が、より純化されたかたちでホバーマンの中に流れ込んでいる。

こうした幾何学に内在する機構の代表的な例は、シザー機構の他にもホバーマンも取り組んでいる折り紙の機構があり、コンピュータライゼーションの加速化以降、動きを内包する幾何学機構の建築への応用研究事例は加速度的に進化を遂げた。東京大学の舘知宏は折り紙機構の代表的な研究者であり、2008年にあらゆるオブジェクトを折り紙で再現する型紙を生成するソフトウェアOrigamizerを発表している。汎用的な折り紙の幾何学ルールを、コンピュテーションの導入によりあらゆるオブジェクトに展開することが可能になったものだ。
2010年には、舘の折り紙研究に続く形で、3D CADソフトであるRhinoceros上で簡易的に物理演算のシミュレーションを走らせることを可能にした、Daniel PikerのKangarooが登場する。

こうした動きのシミュレーション技術の台頭は、2010年代以降、ファブリケーション技術の発達と融合して新しい展開につながってきた。その代表格がMITのSelf Assembly LabのProgrammable Carbon Fiberに代表される一連の4D Printingだろう。素材開発のレベルに動きを制御する幾何学機構を組み込み、精緻なファブリケーションを可能にした3Dプリントによりアウトプットすることで、あらかじめプログラムされた動きを組み込み、パッシブなエネルギーで活性化して動く新しい素材を実現したものだ。Self Assembly Labが志向する世界は、こうした自発的な動きをプログラムされた素材や部品が、ナノスケールからヒューマンスケールまでインフラとして浸透し、自ら必要なかたちに変形しては、自律的に組み立てやメンテナンスが行われていくというものだ。

 Programmable Carbon Fiberのプロジェクトムービー(2014)

なお、Self Assembly Labのファウンダーであるスカイラー・ティビッツ (Skylar Tibbits)は他でもない建築分野の出身で、第2~3回でDeconstructivistからコンピュテーショナルデザインをリードする世界的な建築家となったザハ・ハディッド(Zaha Hadid)の下で働いていた経験をもつ。2007年には同じくHadidの下で働いていたMarc Fornesと共同で、世界中のコンピュテーショナル・デザインを実践する建築家たちを招待し、「具体的なプログラム/ツールとそのアウトプット」を展示し、特定のプログラムやツールが群として示す傾向を明らかにしようとしたScripted by Purposeを企画している。

 「4Dプリンターの登場」(TED2013)

動きの系譜から見えてくること。それはモダニズム以降、建築分野でも加速した未来のアイコンとしての「動き」への希求が、ジオデシック・ドームに代表される手計算と実験的な構造物によるデベロップメントの時代から(フラー)、計算により建築の幾何学に内在する硬さやその動きをシミュレートする道具をつくり出す状況を生み出し(コンピュータライゼーション、OrigamizerやKangaroo)、それがあらゆるスケールに応用されていくことで建築の概念自体の変更をせまるさまざまな試みを誘発していった(コンピュテーション、Self Assembly Lab)、そのような往還運動だろう。この道具と思考の相補的な作用がもっともわかりやすく現れているのが、コンピュテーショナル・デザインの動きの系譜だと筆者は考えている。

木内俊克/木内建築計画事務所代表
東京都生まれ。2004年東京大学大学院建築学専攻修了。Diller Scofidio + Renfro (2005〜2007年、New York)、R&Sie(n) Architects (2007〜2011年, Paris) を経て、2012年より木内俊克建築計画事務所(現・木内建築計画事務所)を設立。
舞台美術・建築から、パブリックスペース・都市計画に至るまで領域横断的なデザインの実践を行う。2015年~2020年には、東京大学Design Think Tankにて都市界隈の類型化と人々の関心のデータ的把握、及びそのプロセスを通した都市介入についての研究を担当するなど、建築・都市における情報学的領域の教育/研究活動に従事。
代表作に都市の残余空間をパブリックスペース化した「オブジェクトディスコ」(2016)など。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示参加。