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建築におけるコンピュテーショナル・デザインの系譜 第1回:建築とデジタル技術の展開をコンピュテーションの系譜から紐解く

木内俊克/木内建築計画事務所代表

2013年にCanadian Center for Architectureで、「Archaeology of the Digital」という展示がグレッグ・リン(Greg Lynn、FORM主宰・Piaggio Fast Forward 代表)をゲスト・キュレーターに迎え、企画・実施された。同展示についてのインタビューで、リンは「Now, it’s the time when we can stop having discussions about digital technologies to start with in the future(今こそ、デジタル技術が「未来になにかを成し遂げてくれる」といった類の議論をやめるときが来た -筆者訳-)」と宣言している。10年代初頭を境に、建築におけるデジタル技術は未来をつくる得体の知れないブラック・ボックスではなく、すでに誰でもアクセス可能な対象になったことが明言されている。これが7年前のことだ。

 Archaeology of the Digital Gallery Tour、Canadian Center for Architectureより転載

 An introduction to Archaeology of the Digital、Canadian Center for Architectureより転載

3D CADアプリ「Rhinoceros」のビジュアルプログラミング環境「Grasshopper」が「Explicit History」としてはじめてリリースされたのが2007年、Rhinoceros6.0でアプリの標準機能として搭載されるようになったのが2018年。少なくとも国際的には、設計作業の一環でプログラミングをとり入れる、という考え方が10年かけて標準化されたといってよいだろう。建築におけるデジタル技術の歴史的記述としてたびたび言及されるマリオ・カルポ(Mario Carpo)『The Alphabet and the Algorithm』(The MIT Press、2011年)では、建築デザインの主戦場は、デザインされるひとつひとつの建物から、そのバリエーションを生みだすアルゴリズムへ移っていくと論じられていた。同著の出版が2011年であったことを思えば、プログラミング環境であるGrasshopperの普及が予見されていた。

では、今やテスト期間を終えて完全に実装段階に入った建築におけるデジタル技術の現在および今後の展開はどうなっていくのだろう。本コラムでは、いま一度直近の25年の系譜を足早に振り返ることで、その延長として現在を捉え直せたらと考えている。そして、そのキーワードとしていま一度導入しておきたいのが「コンピュテーショナル・デザイン」という概念だ。

Algorithmic Architecture』(Routledge、2006年)においてコスタス・テルジディス(Kostas Terzidis)は、「コンピュータライゼーション」と「コンピュテーション」の違いについて述べており、当時の建築業界における主要なデジタル技術のモードは、「コンピュータライゼーション」に偏っていると指摘している。「コンピュータライゼーション」とは、既存の建築産業の定義可能なタスクを、コンピュータにより自動化・機械化する、主に効率化に目的があるデジタル技術の使用方法のことを指す。一方で「コンピュテーション」とは、定義自体が困難な過程を、さまざまな知的活動の再現により探求していく過程だと述べられている。そしてその意味で、2006年時点では、「コンピュテーショナル」へのデジタル技術の活用は進んでいないの現状にあった。

コスタスの指摘である「コンピュータライゼーション」と「コンピュテーション」という区別を立ててみると、2020年現在でもあまり状況は変わっていないようにも思われる。しかし、「コンピュータライゼーション」が、建築という分野を越えて私たちの生活に浸透しきったことで、もはや私たちの身体やものの考え方そのものが変質し、知的活動のあり方が更新されている状況は、非常に「コンピュテーション」的だともいえないか。変化は我々のもっと根幹の部分で起こっている可能性がある。そのために、いま一度「コンピュテーショナル・デザイン」の系譜を紐解き、現代に繋がる流れを確認していきたい。

木内俊克/木内建築計画事務所代表
東京都生まれ。2004年東京大学大学院建築学専攻修了。Diller Scofidio + Renfro (2005〜2007年、New York)、R&Sie(n) Architects (2007〜2011年, Paris) を経て、2012年より木内俊克建築計画事務所(現・木内建築計画事務所)を設立。
舞台美術・建築から、パブリックスペース・都市計画に至るまで領域横断的なデザインの実践を行う。2015年~2020年には、東京大学Design Think Tankにて都市界隈の類型化と人々の関心のデータ的把握、及びそのプロセスを通した都市介入についての研究を担当するなど、建築・都市における情報学的領域の教育/研究活動に従事。
代表作に都市の残余空間をパブリックスペース化した「オブジェクトディスコ」(2016)など。第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示参加。