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新建築ライブラリー 第1回:『建築昭和史』その1

新建築.onlineのひと言連載。金曜日の新テーマは「新建築ライブラリー」です。当社の貴重なアーカイブから、絶版本を中心に紹介していきます。

『新建築』1975年12月臨時増刊として発刊し、2年後に書籍化された『建築昭和史』は、建築家の佐々木宏氏を監修者に迎え編集されました。『新建築』創刊号(1925年8月号)以降の半世紀におよぶ時代が7つの時代に区分され、佐々木氏による概説とともに掲載されています。
このコラムでは、全7章で構成された本書を8回に分けて紹介します。

当時の日本は高度経済成長期を経て安定した成熟期を迎え、経済的繁栄を支えた日本の建築界は、世界的に注目を集めていました。佐々木氏はまえがきで、「何よりも建築の創作活動に専念してきた人びとの熱意と勤勉による蓄積が評価されねばならない」と述べ、「デザインの上で代表的なものは一応国際的水準に達したとみなされはするが、しかし、日本の建築事情は、そのデザインの全般的傾向から社会的な面に至るまで、特殊な問題をかかえている。」と指摘し『新建築』50年分のダイジェスト版である本書の狙いを次のように述べました。これからの建築界の発展のために、過去を振りかえることの重要性を説いています。

以下、本文より抜粋

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日本のこの半世紀の建築界の歩みが、いかに多くの矛盾に満ちてさまざまな葛藤を続出させてきたかという事情を、そこにかなりよく読みとることができる。アカデミックな歴史の記述ではこのようなわけには行かない。ジャーナリズムならではの表現が展開されているのである。たまたま創刊の時期は、日本における近代建築の誕生前後である。欧米の新しい動向を「新興建築」と名づけて注目し、摂取しようとしていた頃であった。新しい雑誌の創刊ということは、そのような動向の反映でもあった。創刊時顧問格であった武田五ーは「新興建築」に批判的であったと伝えられているが、その新しい建築がどのように誌面に登楊してきたかという動向が判明するのは判味深い。

過去の様式による折衷主義や選択主義が、日本の場合、西欧のものばかりでなく日本の伝統的なものを含んでいたという、和洋の二重構造の展開も示されている。さらに国粋主義の傾向に影押されて行く建築家の姿を読みとることも可能である。その他、戦前、戦中、戦後の 経済的な窮乏時代にどのような建築の営為が行なわれていたかというドキュメントもある。 そして今日に近いすぐ過去の建築デザインの展開の推移も、繰り拡げられている。

ひとつの雑誌の掲載資料を基にしているので、かならずしも日本の建築界の全貌を示すものではない。しかし、それぞれの時期の主だった動向や傾向を反映させ、かなり重要な面を伝えているといえるだろう。とくに、英文版が刊行されて以来の状況は、海外における日本の建築事情の理解の基礎となっている。たとえ編集者たちが意識しなかったとしても、日本の建築の国際的情報はこの雑誌による影評が大きいのである。

ここに織り込まれた道程は、今後さらに将来に向かっている。たえず自らの祝点を確認し、また立脚点を反省する意味において、この『建築昭和史』は重要な手がかりを与えてくれよう。 歴史的展望は単に好事家のためにあるのではなく、活動し続けるための意味を共有化するために必要なのである。

昭和52年2月15日 監修者として 佐々木宏

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次週は、第1章「大正14年から昭和5年までの状況」をご紹介します。

著者略歴(*本データは書籍の刊行当時に掲載された情報です)
佐々木宏
昭和6年北海道に生まれる。昭和30年北海道大学工学部建築学科卒業。昭和32年東大大学院修士、昭和37年同博士課程終了。現在、佐々木宏建築研究室主宰、および法政大学工学部講師。