ETHz CAAD ファブリケーションの授業
前回、全部で8つあるモジュールのうちの2番目と5番目にあたる、プログラミングの授業について触れた。今回は、4番目と7番目にあたるファブリケーションの授業について紹介する。
現在のETHzは校内に大きなファブリケーション施設があるが、当時は少し離れたところにCAADの研究室が倉庫を借りて、そこにロボットアームなどのファブリケーション機材を保管していた。ファブリケーションの授業は、ゲスト講師を招いて行うスタイルだった。モデュール4では、生物との呼応を表現した建築を電子アート的な技法と新しい素材で制作するというテーマで、ワンボードマイコンの一種である「Arduino」を触るところから始まった。小学生ぶりに半田ごてを使いながら、Arduino言語によってプログラムを制作・コンパイル・デバッグなどをして、インタラクティブな作品をつくるための基礎を学ぶ。回路図や半田ごてに慣れた後、手作業でワイヤーを繋ぐ作業が一番大変だった。素材に関しては、樹脂と温度で色が変わる絵具を入れて型に流し込む鋳造方法を習いながら、型枠を「RhinoGH」でつくるといったクラフトとデジタルを行き来するプログラムだった。また、ゲスト講師のレクチャーシリーズも開かれ、さまざまな研究者の講義を聴講できた。fig.1
当時、ロボットアームはラボにあったのだが、筆者の年はロボットアームの使い方に長けた先生が不在だったため、クラスメイトとマニュアルを読みながら試行錯誤したのはよい思い出だ。できなくても挑戦させてくれる環境は、今思うと貴重だ。 校内には、ETHzの生徒が使うことができる「WoodShop」や「MetalShop」といった木材加工用の工房や、メタル加工用の工房も自由に使えるため、なにかプロトタイプをつくりたいときにすぐにShopに立ち寄ることができる環境だった。筆者が日本で受けた建築教育と違うところは、そういった工房がオープンであり、そこにテクニシャンと呼ばれる技術サポート役の職員がいることだ。さまざまな素材に直に触れて1:1スケールの生産モデルをつくることができる。木工用の機材の使い方や、CNC(コンピュータ数値制御)マシンの使い方も予約をすればいつでも教わることができた。創造する機会が、どの学部の者にも開かれていた。
モデュール7はスイスの林業者のもとへ出向いた。ゲスト講師のChristoph Schindler氏が「イチイ」という毒をもつ木材を使い設計する林業者の事務所の一要素をつくるという、設計コンペであった。選ばれた筆者のチームは、事務所のドアを制作した。fig.2
修士制作では、「WoodenFuroshiki」という作品を制作した。fig.3
木という硬い素材を、風呂敷のように柔らかく、かつ用途や決まった形をもたないプロダクトに落とし込むというコンセプトだ。木目に沿って切り出した木材を模様に沿って配置するプログラムを書いたり、CNCマシンの前で何十時間も木を削ったり、「MetalShop」メタルショップでボールジョイントといわれるネジを、機械工学専攻の友人のアドバイスを受け自分たちで設計するなど、さまざまな経験をすることができた。
ファブリケーションの授業を通して、建築学では学ばない分野までを横断的に学んだ。物をつくるこということがデジタルデザインを通して実際の物質に近づいていること、素材や機械工学、情報学までシームレスに繋がっているのだと感じた。